森田療法とは、日本が世界に誇るべき精神療法であり、1919年頃、東京慈恵会医科大学初代精神科教授の森田正馬(もりた しょうま)によって編み 出された。 森田はフロイトと同時代人であり、この心理学の黎明期に、 西では精神分析療法、東では森田療法が生み出されたことに なる。森田療法は、何かにとらわれて心が流れなくなる状態を、絶対臥褥(7日間気晴らしをせず寝たままでいる)、日記指導、作業、読書などを用いて段階的に打破し、「あるがまま」の健康的・創造的な心的状態へと変化させていく治療法である。原法は家庭的入院療法だったが、現在は入院療法を実施できる 施設は少なくなり、外来での森田療法が主流となっている。 森田博士自身も、入院治療の他に日記指導、外来指導、集団指導などを行っていた。
森田正馬
森田正馬全集
森田正馬筆の色紙
入院生の作品
森田療法に適応するのは、一般的には神経症といわれる人たちであり、これはいわゆる内因的な病気ではなく、心の葛藤、とらわれから起こってくる病的な状態のことで、たとえば対人恐怖、強迫神経症、不安神経症、心身症などがそれにあたる。森田療法は、事実にもとづいたきわめて現実的な治療法で、神経症の人たちの過去を探ったり、無意識を考察したりはしない。ただ、神経症の人たちが抱えている不安の裏側にある欲望を重視し、自発的な活動欲求を引き出していくことを治療のポイントとする。日常的な行動を通して、とらわれている心をより建設的で柔軟な方向に変化させていくものである。治療効果はきわめて高い。
しかし森田療法は単なる技法のみから成り立っている治療法ではなく、その背景には東洋的な自然観、人間観がある。人間のなかにある成長する力、自然治癒力などに信頼をおく。その世界観は、神経症の人のみならず、広く一般の人たちにも役に立つ要素が多い。現在では神経症以外の、うつ病、慢性病、癌患者の人たちにも応用されている。また国際森田療法学会も開催され、海外の精神療法家にも、森田療法が広まりつつある。